バーニーズの健全性
バーニーズマウンテンドッグはとても魅力的な犬種ですが小型・中型犬種と比較して寿命は早く、この犬種に多く現れる疾患がいくつもあります。
ブリーダーはできるだけ長生きできて飼い主に心的・経済的にダメージを与える疾患にならない犬を作出していかなければなりません。
まず初めに、おことわりしておきますが私も未だ勉強中であり経験も浅いために間違った解釈をしている事が多々あると思います。
間違いにお気づきの事があったり、違う想定がある場合などはお手数ですが「お問い合わせ」からアドバイスやご指導、質問、議論など遠慮なくメッセージして下さい。
遺伝性疾患について
疾患の多くは何かしらの遺伝的要素を持っていると思われます。しかしそのほとんどが劣勢の遺伝で、多因性の複合型であったりするので特定して避けるというのは難しいです。
下記にバーニーズによくある遺伝性疾患を書き連ねましたが、そのどれにも当てはまらない完全に健全な遺伝子を持つバーニーズはいないでしょう。
劣勢遺伝というのは「キャリアー」という言葉が一番理解しやすくなるのではないかと思いますが、次世代にすぐに反映されるのではなく、出会って対になる遺伝子次第で何世代か先ででも現れるという解釈を私はしています。
犬のDNAの元となる染色体の型は人間よりも多い78本の対になる型を持ちます。
(人はは父母それぞれから23種で計46)
(遺伝子の総数は犬が約18500個、人は約24500個で人の方が多いです。DNAの総数は約30億個にコピーされます)
父犬の遺伝子(元となる染色体)と母犬の遺伝子1つずつ対になりそれが60以上構成されます。遺伝子型の1つに原因があり疾患が現れる場合はメンデルの法則を当てはめて避けて行く事が容易ですが、犬の疾患には複数の遺伝子型が複合されて要因になるものも多く、それは特定できないので避けたり淘汰する事が現状無理です。
多因性遺伝では父犬と母犬の相性によって出現率が変わります。父母それぞれの持つキャリアとしての統計上の確率どおりにはならずオスとメスのマッチングの良しあしで意外な結果になる事がよくあります。
多因性遺伝による疾患を減らしていくには時間がかかりますが、長い時間・世代のデータを取り現れた個体へ制限をかけていく事によって少しずつではありますが改善していけます。
今日、ヨーロッパと北アメリカの両方ともでブリーダー達に認知されているのは、多因性遺伝疾患では、股関節と肘関節のレントゲン診断で形成不全の兆候が診られた犬の繁殖ラインからの排除、ガンや自己免疫不全によって早死した犬の繁殖ラインからの排除です。早死の基準にはよく「3歳まで生きなかった犬は・・・」と言われます。
その他では多因性ではなく発症率も低い疾患でもVWD(フォン・ウィル・ブランド)のようにDNA検査をしてキャリアーであれば無条件で繁殖ラインから排除するものや、DMやRDのように今日現在では発症率やダメージも低くキャリアーであっても繁殖はOKだけど今後は裾の根から排除していく必要があるためにDNA検査をして交配プログラムを配慮しておくべきもの・・・などもあります。
まれに、犬質(骨格構成やタイプなど)がドッグショーで証明された犬で例外的に、本来繁殖に使わない方がベターだと言われている疾患が現れたけれど、多因性遺伝などで原因が特定できないもので、「もしかしたら仔犬達に出てしまうかもしれないけど、この犬を避けて他の相手を選んだとしてもその犬も同様にキャリアーである可能性はあり、子孫へのその疾患の発症率は少し高いかもしれないけれど、多面的に同時に追求するべき犬質とタイプの向上を期待して繁殖に使用してみる場合もあります。
いずれにしても純血種の保存には疾患への考慮が必要不可欠です。
ブリーダーを志す者が皆、遺伝性疾患に注意を払い繁殖行為をしていけば必ず改善されていくと思います。
しかしバーニーズマウンテンドッグはまだ発展途上中です。愛好家が情熱と愛情を持って繁殖していけば必ずよい方向に進むと私は思います。私自身もまだかけだしで勉強不足、発展途上です。より多くのコアで誠実なファンシャーと知り合い楽しみながら追求していきたいです。
股関節形成不全
股関節形成不全には特に気をつけなくてはなりません。繁殖者も飼育者(購買者)もです。
バーニーズの遺伝性疾患の中でも排除しにくい疾患です。
ブリーダーは、アメリカの検査機関OFAか日本の検査機関JARDでレントゲン診断を受け良い評価を受けた犬のみ繁殖に使うのが最低条件です。
A評価同士の組み合わせ繁殖でも10%のCが誕生すると言われています。
日本のバーニーズの中では五段階評価のA/A評価(JARD),EXCELLENT評価(OFA)を受けられるのは全体の10%いるでしょうか?私はもっと少ないと思います。
そのような遺伝子プールの中で繁殖が行われているので悪循環しています。
股関節形成不全は必ずしも先天的な疾患ではありません。
発生する要因や時期に関しては飼育環境による後天的な状況の方が多いです。
対策としては
1、床の素材を決して滑らないものにする。
2、若い時期は特に、太らせない。
3、自由運動で支持筋肉構成を発達させる。
4、ビタミンC、グルコサミン、メチルスルフォニルメタン、コンドロイチンなどの
サプリメントを過度にならないようにバランスよく与える
ベビーパピーの時からせめて上記3点を維持できれば後天的な股関節形成不全は高確率で予防できると思います。
3番目の条件を満たせるドッグランやグランドを持っている飼育者は日本にどれ位いるでしょうか?非常に少ないと思います。
骨格構成が出来上がっていないバーニーズを必要以上に運動させると関節を痛めてしまうのでバランスも必要です。
4番目のサプリメントについては、多すぎると逆に発育スピードを上げ過ぎてしまい悪化させてしまいますので注意が必要です。カルシウムの過剰摂取は特に良くありません。ドッグフードに含まれる以上のカルシウムの摂取は危険です。
新しくバーニーズの仔犬を迎える場合には犬種の特徴として股関節形成不全になる確率が高い事を認識してからバーニーズを選んでもらいたいと思います。
バーニーズよりもサイズの大きいマウンテンドッグはもっと酷い確率になると思います。
セントバーナードやニューファンやマスティフと名のつく犬種は、バーニーズよりもさらに悪いのではないかと思います。
ゴールデンやラブラドールレトリーバーが特に悪いとよく報告されイメージされていますが、
ゴールデンやラブはレントゲンを提出したデータが大量です。発症数が大量ですが、確率では、バーニーズはもっと悪いと思います。
フラットコーテッドやグレートデンなど見た目スマートな犬種は比較的発症しにくいです。
だけどスマートなバーニーズは確率が低いかというとそうではありません。
少し話がそれますが仔犬を選ぶ際のポイントとして参考までに
バーニーズで白い部分が大きい(多い)と、
比較的に体質や関節が「ゆるい」場合が多いです。
毛質も量が多くなる傾向がありバーニーズらしさや醍醐味は多く感じる人が多いと思います。
データソースはないですが股関節形成不全が発症する確率も高く感じます。
その逆に白い部分が少ないとその反対かというとそうではありません。
白が少ないのと色素が濃いのは別です。
色素が濃いと白が少なくなる傾向はありますが白が少ないけど色素が薄い個体も多くいます。
バーニーズの場合、色素が濃いタイプというのは、茶色が濃い、眼の色が濃い、口の周りの色が濃いなどです。
鼻の黒さは、また別の問題があり、薄くなっていってしまう犬が多いという課題がありますが、それは色素の濃い犬にも見られます。
色素が濃いタイプは体質的にはゆるくなく筋肉や関節も健全的に優れる場合が多いです。
データを採って比較すれば色素が濃い犬の方が発症は少ないかもしれませんが、
色素が濃い個体にも股関節形成不全は多いです。
そもそも股関節形成不全とは…
日本語の漢字で「遺伝性」「形成不全」と表現されると勘違いしやすいと思います。
生まれながらにして股関節周辺の骨格や関節が異常なわけではありません。
発育異常で変形していってしまうわけでもありません。
股関節診断のレントゲン写真を見て下さい。
分かりやすい用語から説明すると、太ももの部分を大腿骨と言います。
大腿骨の上側先端は大腿骨頭と言い球状になっています。
その骨頭は腰、股間の部分の骨、「寛骨」の寛骨臼と呼ばれる骨盤腔にはまっています。
球体がはまり込むように溝が「お椀」のようにくぼんでいます。
健全な個体ではそのお椀に球体が深くはまりこみ、その間隔は狭く均等です。
というのが大雑把な説明です。
検査機関(JAHD)では細かく
「1、ノルベルグ角度」
「2、寛骨臼と骨頭の面積比」
「3、寛骨臼頭側縁」
「4、実効寛骨臼頭側縁」
「5、寛骨臼窩」
「6、寛骨臼尾側縁」
「7、モーガンライン」
「8大腿骨頭と骨頚の骨増生」
「9、大腿骨頭の変形」
がそれぞれ減点法で点数化されます。
レントゲンによって形成不全と評価される場合で、明らかにはまりが悪く脱臼状態の場合もあります。
脱臼していてもその犬が痛みを我慢できてしまう場合もあるし、痛みを伴わない場合もありますし綺麗に歩様する場合もあります。
多くは、大腿骨頭の寛骨臼へのはまり具合が若干ゆるかったり歪んでいたりして関節の動きを支持する構成にゆるみが「先天的に」、「若干」あり、仔犬の間は通常の動きをしているけれども関節が運動していくうちにそのゆるみが軟骨に衝撃や破壊を与えそのダメージは軽度ならば自己修復され安定を取り戻すのですが、
体重の急増加や足を滑らせて通常の運動以上に悪い方向へ破壊を与えてしまうなどの要因により
軟骨が形成を修復しようとする際に変形して、脱臼しやすい形成になってしまう…とか…
神経に干渉してしまい痛みを常に感じるようになる…など
生後6カ月以降徐々に変形して悪化していきます。
A評価の親犬同士から生まれたならば安心かと言うと、そうとは限りません。
C評価の親犬からもAの子犬はたまに生まれます。
その犬は良評価でも両親や同胎犬は形成不全が多くいる場合があるので
キャリアとして血統の持つ遺伝性にも注意しないといけません。
そもそもの要因は両親の劣勢遺伝と推測される遺伝子同士の複数の組み合わせが影響しています。
ただ単にその犬の評価だけによるものではなく血統として全体的・相対的に底上げしていかなければなりません。
なのでスウェーデンやノルウェーのB評価は他国のBより良い傾向だと思います。
スウェーデン(たぶんノルウェーも)では審査が厳しい上に片側でもCの評価だと繁殖に使えません。
ケネルクラブが禁止していて血統書を発行しません。すでに他の国と比べて健全性の水準が高いです。
キャリアとしての組み合わせの確率とは別に、父親と母親の相性、マッチングにより悪い傾向になる場合があります。
ドッグショーで活躍した構成の素晴らしい牡と牝が交配しても相性がマッチしないで
10匹生まれたのに1匹もショードッグがいないという場合もあります。
同様にA同士で、そのバックグラウンドもAだらけで、過去には軒並み良い仔を作った実績ある同士でも
複数頭のC,Dが発生してしまうケースもあります。
ガン=キャンサー同様、ほとんどのバーニーズがほとんどの疾患において劣勢遺伝のキャリアであると想定する必要があります。
劣勢で、さらに複数の組み合わせが要因となるので、特定が難しく淘汰する事は難しいです。
それでも規律を守って制限すれば、少なからず徐々に改善に向かうのも分かっているというのが現状です。
真剣に対策しているブリーダーから高評価同士の両親の仔犬を選んでも股関節形成不全は発生しています。
親犬の評価を公開していないような知識や誠実さに欠けるブリーダーやショップからパピーを迎えるならば股関節形成不全は発生して当たり前と認識して下さい。
股関節形成不全のバーニーズはどんな生活になるか・・・
立って動く時に痛みを感じるので寝転がってばかりの場合があります。
歩こうとするときに痛みをかばうので歩き方が不自然になる場合があります。
お尻をフリフリさせて歩くローリング歩様や頭を下げて歩きたくなさそうに見えるなど。
年老いた時に排泄にさえ行けなくなる場合があります。
飼い主として良心があり、その余裕があれば手術する事になり得ます。
程度が重くなくてもサプリメントで改善が見られるので、少なくても食費やサプリメントでお金を費やす可能性があります。
真摯なブリーダーにも葛藤があります。
それでもこの犬種が好きだし発展を望みます。
分かっていてもまたバーニーズを選ぶファンシャーも同じだと思います。
知識として認識して、各自がその犬単体や犬種の発展を望めばきっと良い方向に向かうと思います。
寿命が短い事や健全性に劣ると分かっていても、家族の一員やパートナーとして
バーニーズがそばにいない事は考えられないというファンシャーやブリーダーが世界中にいて発展を望んでいます。
人気のある犬種で良いブリーダーがレベルを上げたゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーでもそれは同様で、バーニーズと比較して少し発展しているのだと私は考えています。
肘・肩の関節疾患
股関節形成不全については一般のファンシャーの皆さんにも認知度が上がり始めましたが、
股関節のレントゲン診断は気にするけれど肘については軽視している人も少なくありません。
肘と肩の疾患についても遺伝性である事は間違いなく、バーニーズでは特に多いのでとても重要です。
肘の関節の構成が正常で健全なバーニーズは過半数に満たないというのが現実です。
ブリーディングに使われる父母犬は股関節のレントゲン診断と併せて肘もレントゲン診断を受けてクリアする必要があります。
レントゲンによる診断ではOAと呼ばれる遺伝性の変形性関節炎かどうかをチェックされます。
骨の異形成を判断する基準はなく、異形成であれば連鎖的に必ず炎症を起こすので炎症の具合と度合いで審査されます。
バーニーズは成犬になると体重が重くなる犬種です。その割に体質が軟らかく肘や肩のトラブルを抱える個体が多いです。
PANO:汎骨炎
成長痛などとも呼ばれます。生後5カ月位~12カ月位にかけて多く発生しています。
バーニーズにはとても多く見られます。
前足に体重を乗せると痛くなり跛行(はこう=びっこう)してかばうようになります。
成犬になる頃には自然治癒している事が多くあります。
結論として原因は不明です。断定的な診断はできない場合が多いです。
治療や手術などの得策はない場合が多いです。
幅広くパノラマ的に複数の要因が関連しますが、おもに血流の問題が多く、ウイルス性の疾患、自己免疫過剰による障害が関連する場合があります。
長骨の内部脂肪骨髄退化及び骨細胞によって置換されているプロセスで骨内部の血流が混雑になると、骨(骨内膜)の内側と骨(骨膜)の外側を覆う組織をカバーする組織も関与して発症します。
最終的には新しい骨細胞が再吸収され、骨髄が復元されます。
対策としては、太らせない事や消炎鎮痛剤・グルコサミン・コンドロイチンやビタミンCのサプリメントの投与などです。重症の場合はステロイドも使用されます。
カルシウムとリンのバランスやタンパク質の摂取量が関連していると思われていて食事管理に気をつけます。
信ぴょう性は定かではありませんがタンパク質のパーセンテージの根拠でチキンベースではなくラムベースのドッグフードが良いと言われたり、トウモロコシ・大豆・小麦の量を制限すると良いなどと言われたりもします。
ブリーダー間の秩序として、基本的にはPANOを経験した犬を繁殖に使うのは避けるのがベターです。
OCD:離断性骨軟骨炎
OCDは脚(飛節)や肘などほぼ全ての関節で発症しますが最も一般的に肩で発症します。
構造が複雑で説明が難しいのですが骨の末端に摩擦を和らげるためにある軟骨が剥がれてしまい動く時に痛みを伴い跛行します。
バーニーズは他犬種に比べて多く見られます。
ヨーロッパでは肘の関節炎の審査の際にOCDの審査・評価をする国(機関)もあります。
メスよりもオスに多いというデータがあります。
生後10カ月~18カ月に集中します。
運悪く、剥がれてしまった軟骨の欠片=マウス(鼠)が浮遊してしまい動く度に酷く痛み、手術によって摘出が必要な場合があります。関節鏡手術の高度な技術が必要で高額な治療になってしまいます。
HOD:肥大性骨異栄養症
HODは成長過程の骨の問題のうちの一つです。
生後2~8カ月の大型犬に多く見られます。
オス・メスは関係ありません。
骨の端部にコブ状に腫れたような炎症が起こり発熱を伴い跛行する。
対策は痛み止めの投薬のみで得策はない場合が多いです。
軽度の場合は自然に治癒する事が多いが、重症の場合は関節に永久的な損傷を受け四肢に奇形を残す場合もある。
消炎鎮痛剤の投与で改善がみられる。
その他
肩・肘の遺伝性疾患についてよくある物を上記に記しましたが、その他にもちょっとした怪我や損傷がきっかけで複数の連なる骨の発育バランスが崩れて骨格が悪化してしまう場合などもあります。
体質が固いとか各骨の構成角度が正しく強い、筋肉の支持が良いおかげで治癒しやすい、またはその逆で変形しやすいなどという事も少なからず影響します。
膝の関節疾患
十字靭帯損傷(CRUCIATE LIGAMENT DAMAGE)
膝の関節として、大腿骨と脛骨(けいこつ)を安定して運動できるように繋ぐ膝関節部分で、半月板と呼ばれるアブソーバークッションのような物を挟む形で5つの靭帯で構成されていますが中側にある十字型の靭帯と両サイドで縦に走る靭帯が切れてしまったり亀裂が入ってしまったりします。
バーニーズにはとても多く発生してしまいます。
痛めてしまうタイミングとしては、激しい運動で急なダッシュやブレーキやターンをした時やフローリングのような床で滑って捻るなどイレギュラーな運動があった時が多いです。
年齢が高くなるにつれてジワジワと損傷していく場合もあります。
いずれかの靭帯が完全に切れてしまった場合や半月板を傷つけてしまった場合などは重症で脚を地につけないでケンケン歩行するようになったりします。
そもそも体重が重い事が要因になっているので、片足をかばって地に着けずいて反対の脚の靭帯をも痛めてしまう場合や手術をして治療したのにその周りの別の靭帯も弱っていて後日損傷してしまうなど運悪く連鎖してしまうケースもあります。
以前はFLO法と呼ばれる手術で人工の糸のような物で切れた部分を繋ぐ手術がありました。現在でも手術費用が低く済む(決して安くはないですが)理由で選択される場合がありますが術後安静に固定しなくてはならず歩けない期間が長くケアが大変です。
現在主流となっているのがTPLO法という、特殊な金属プレートを装着する手術です。術後すぐに歩けるようになる長所がありますが手術費用が高額です。何年か経つと金属プレートの形状や大きさなどを変更する必要があるのではないかという事が話題にあがり敬遠される獣医師もでてきているそうです。
獣医学先進国のアメリカでは改良版TPLOとしてTTA法という手術が開発されています。
非常に高額な手術をしても永久的に安心なわけではないので
手術はしないで損傷した靭帯はそのままで周囲の筋肉で固めて安定させようというリハビリテーションを選択する獣医師もいますが、ダイエット・水泳・坂道登りなど時間と労力を沢山費やす苦労が必要になります。
ブリーダー間の秩序として、基本的には靭帯損傷を経験した犬を繁殖に使うのは避けるのがベターです。
ガン(腫瘍)
腫瘍は大雑把にガンと呼ばれます。
バーニーズの死因では最も多く、2頭に1頭はガンで死んでしまうと言われています。
悪性腫瘍の平均発症時期は6歳です。平均6歳という事は4~5歳でガンでなくなっていまう犬もたくさんいるという事です。
最近では早期発見で治療できる場合もあるそうなのでシコリができたら早く獣医師に診せ良性か悪性か検査したいです。日頃からマメにブラッシングやマッサージをしていれば早期発見に繋がります。
ただし、良性で小さな腫瘍でも切除後に同じ場所にすぐに再発して前回よりも大きくなってしまう・・・という場合もあります。
バーニーズはかなり高い確率でガンのキャリアです。遺伝子に起因している事はおそらく間違いありません。
ブリーダーの秩序としては、繁殖に使う種牡と台牝を選定する時には若くしてガンで亡くなった犬が近い先祖にいる犬どおしの組み合わせは避けていくのがベターです。
アメリカの犬界の格言で「3歳になれずに亡くなってしまう犬の血統は陶汰するべきだ」みたいなのがあります。
悪性腫瘍の兆候に関するメモ
1, 異常な腫れは持続または成長し続ける
2, 治癒しない傷
3, 原因不明の体重減少
4, 食欲不振
5, 体の粘膜部からの出血や傷
6, 悪臭
7, 食欲不振、嚥下
8, スタミナがなくなり、かったるそう
9, 歩き方が不自然
10, 呼吸困難
組織球腫
悪性組織球症
悪性組織球症は、バーニーズ・マウンテン・ドッグが発症するガンでは最も多い遺伝性疾患です。
組織球種とは、イボのようなカタチで現れ成長するガンの一種です。
バーニーズに発生する組織球腫は、全身性組織球種、皮膚悪性組織球種が多いです。
2016年現在、スウェーデンでDNA検体試験による遺伝性キャリアーの診断ができるようになりました。
今後アメリカでより急速に研究され普及する事が期待されています。
組織球症とは?
皮膚組織球症Cutaneous Histiocytosis
全身性組織球症Systemic Histiocytosis
悪性組織球肉腫Malignant Histiocytic Sarcoma
悪性組織球増殖症Malignant Histiocytosis
まず、用語や概念のいくつかを定義する必要があります。
骨髄は、白血球、赤血球、および血小板を生成する。
白血球は、白血球細胞であり、それらは3つのグループから構成されている。
それらのグループの一つ、nongranulocytesはリンパ球や単球から構成されています。
単球は、血液中を循環する食細胞(他の細胞や異物を摂取セル)ですが、それは身体組織に移行したときにこれは、マクロファージや樹状細胞のいずれかに発展しこ組織球となります。組織球は、免疫システムの重要な一部です。
樹状細胞は、異物を認識して抗原とT細胞にそれらを提示することによって、抗原に対する免疫システムの応答を刺激する役目をします。
マクロファージ細胞も同様に異物を吸収し、免疫システムの応答を刺激するのに役立ちます。
組織球は、真皮(皮膚の中間と厚い層)および結合組織における体で発見されています。
肉腫は、骨の癌、軟骨、脂肪、筋肉、血管や他の結合または支持組織に与えられた名前です。
全身性組織球症は、悪性組織球症とは別のもので、それは組織球症の独立した別個の形式と見なされることとして定義されました。
一般的に徐々に悪くなる。
最終的には脾臓、肝臓、骨髄および/または肺に広がり、そのプロセスは、悪性組織球症と同様です。
この疾患は、肺及びリンパ節の組織球浸潤によって特徴付けられ肝臓、脾臓、および中枢神経系にも影響することが多い。
組織球は、この病気で異常に増殖する免疫系の構成要素である。
全身性組織球症は正常なシクロスポリンやレフルノミドなどの免疫抑制薬や、コルチコステロイドの免疫抑制薬で緩和・延命できることがある。
診断時から5年を超えて生存できた例もあります。
平均発生年齢は4歳で統計上比較的オスに多く発生する。
播種性組織球肉腫、脾臓、リンパ節、肺、骨髄および皮膚の局所的な病変として発生します。
また、特に、単一の臓器、脾臓で発生した後、急速に多臓器に転移することもあります。i
悪性組織球症肉腫(MH)は、先天性の遺伝疾患です。
症状は通常、食欲不振(食欲不振)、体重減少、倦怠感、脱力感、呼吸困難、咳、息切れ、または異常肺音があるかもしれません。
X線写真では肺、または脾臓や肝臓(脾腫や肝脾腫)の拡大で単一または複数の腫瘍が表示される場合があります。
リンパ節を大きくすることもあります。
血液検査では正常の場合もあります。貧血である場合もあります、
それは血小板数(血小板減少症)が少ないと示すことがある、または、高肝酵素活性を示すことがあります。
この癌は、脾臓、リンパ節、肺、および/または骨髄に影響を与えるだけでなく、
肝臓、中枢神経系、腎臓、骨格筋、胃、および副腎に影響を与えることがある。
脾臓は、原発腫瘍部位であり、それが早期に検出され、脾臓の除去(脾臓)は有益な証明されています。
重度の貧血は脾臓における腫瘍(単数または複数)のケースで 見られます。
除去されると、赤血球数は正常な状態に戻すことができる。しかし、悪性組織球症が同時に多くの臓器を攻撃する疾患で急速に転移するので、犬は最終的には他の臓器への転移により屈する。
悪性リンパ腫(リンパ肉腫)
悪性リンパ腫(リンパ肉腫)は、体の免疫を担うリンパ球ががん化する病気で、造血器系のがんの一種です。
悪性リンパ腫は、解剖学的な位置から「多中心型」「縦壁型」「消化器型」「皮膚型」などに区分されますが「多中心型リンパ腫」が大半です。中高齢犬に多くみられますが、若齢でも発症します。
【症状】症状はさまざま。「多中心型」では体表のリンパ節がいくつも腫れる
悪性リンパ腫は、体のどこのリンパががん化するかによって症状が異なります。
「多中心型リンパ腫」では、下あごや腋の下、股の内側、膝の裏など、体表のリンパ節が何か所も腫れるほか、元気が少しなくなる、
食欲が少し低下するといった症状が見られることがあります。
症状が進むにつれて、運動不耐性(運動をしたがらないこと)や食欲不振、嘔吐や下痢が見られるようになり、
末期では痩せてきて、免疫力も低下し、肺炎や膀胱炎など、様々な感染症にかかりやすくなります。
「消化器型リンパ腫」では、消化管のリンパ組織やリンパ節が腫れるもので、
これにともない下痢や嘔吐、食欲不振などの消化器症状が見られます。
「皮膚型リンパ腫」では、皮膚に腫瘍として現れるもので、大きさの様々なできものや紅斑、脱毛など、様々な皮膚病変が見られます。
皮膚型は、皮膚に腫瘍ができる脂肪腫や肥満細胞腫などの他の腫瘍や皮膚病などと見分けがつかないことがあります。
この他、「縦隔型リンパ腫」では、胸腔内にあるリンパ組織が腫れるもので、
これにともなって頻呼吸(呼吸の回数が増加すること)、咳やチアノーゼなどの呼吸器症状が見られます。
【原因】原因不明。リンパ腫全体の約80%が「多中心型」
悪性リンパ腫が発症する原因は解明されていません。
【治療】化学療法(抗がん剤の投与)が主体
悪性リンパ腫の治療は、診断の確定後、おもに化学療法(抗がん剤投与)を行います。
しかし、リンパ腫のタイプによっては、外科的な処置などが必要となります。
リンパ腫のタイプや進行程度、化学療法への反応などによって、その予後は様々です。
肥満細胞腫
=MAST CELL TUMORS(MCTs)マスト細胞腫瘍
皮膚は、2つの層、薄い外側の層、表皮、および真皮と呼ばれる厚い組織で構成されている。真皮は皮下組織によって下組織及び器官につながっている。真皮内の一方は、毛包、神経終末、汗腺につながり、肥満細胞はそこに出現する場合が多い。
肥満細胞は、体のアレルギー反応による場合が多い。
本体は、アレルゲンと接触すると、肥満細胞は、ヒスタミン含有顆粒を放出する。最終的に腫れを引き起こして、イボのように展開。肥満細胞が制御不能に成長し始める。
イヌのすべての皮膚腫瘍のうち25%は肥満細胞腫瘍である。さらにこれらの腫瘍の半分は悪性である。
それらのほとんどは固体に柔らかい感じのように隆起した結節性腫瘤で表れます。
皮下組織や皮膚の下にあり、脂肪嚢胞と区別できない場合もある。
半分は体に発見され、40%が足で発見されており、10%が頭部や首に発見されています。
これらの腫瘍は、肝臓、脾臓、骨髄を含む、任意の場所に出現することがあるが、ほとんどのMCTは、皮膚に見出される。
MCTははあらゆる年齢の犬で発生する可能性がありますが、それらは一般的に8.5歳の平均年齢で、中年や高齢犬で発見されています。
統計上オスメス性別に関係はありません。発症率は遺伝に関係していると考えられている。
【原因】他の危険因子は、ウイルス感染症、など火傷などの以前の怪我の部位を含む。
【対策】毎日愛犬を慎重に触りシコリやバンプ、イボができていないかチェックする。
【診断】腫瘍の一部を注射器などで採取して検査する事ができるが、悪性の腫瘍なのに採取した場所が悪く陽性反応になる場合があるので、しっかり検査しようという場合は全て切除してそれを検査機関に送る必要がある。
悪性良性に関わらず腫瘍が再発したり部位が広がったりする場合もある。
リンパ節への関与の具合や度合、他の部位への転移などステージⅠ~Ⅳの4段階に診断される。(アメリカ)
【治療】外科手術、化学療法、放射線、又はこれらの組み合わせがすべてのオプションである。全身に複数ある場合や切除が困難な場合放射線治療が多い。
また手術後の腫瘍の再発を防止する場合の化学療法は、ステロイド=プレドニゾンである。
ステロイド-プレドニゾンまたはプレドニゾロンは-肥満細胞と戦うために最も効果的である。
それは手術前のMCTを縮小するために、または手術後の転移を防ぐために使用される。
切除手術は最も望ましい治療選択肢です。
腫瘍は通常、一見、明確に定義されたコアで構成されていますが、そのコアの周りに正常に見える組織の細胞の "ハロ"があります。なのでその周りの3~5センチメートル多く除去する必要があります。
内臓の疾患
胃念転:BLOAT(誇張)
胸の深い大型犬によくある、死に至り易い疾患です。統計的にはかかりやすい血統などがありますので遺伝性のうちの一つでもあります。
胃がねじれ急激にガスや空気がたまりお腹が脹れあがります。
胃念転はお腹が腫れれば分りやすいですが、予兆として落ち着きがなくなり寝たり起きたりウロチョロしたりヨダレを多く流したり、過呼吸や異常行動などもあるそうです。歯ぐきが変色する場合もあります。
胃念転については早期発見で一命を取り留められる事があります。ドーベルマンやボルゾイなどの専門ブリーダーでは水道ホースを口からお腹に入れて自分で処置できる方もいます。
対処法を検討しておくことと万が一の時にすぐに獣医師に見てもらえるよう想定しておく事が重要です。犬を留守番させるような環境では何も対処できません。そのような環境の方は胸の深い大型犬を飼うことは控えた方が良いと私は思います。
腸念転
胃念転が腸の方で起こるバージョンです。
バーニーズにも多く発生しています。
手術が必要になるので胃念転同様、死に至り易い疾患です。早期発見が何よりも重要です。
門脈体(肝臓)シャント
門脈体循環シャント(PSS)は、肝臓に影響を与える先天性の疾患です。
シャントのさまざまな種類がありますが、先天性門脈体循環シャント(CPSS)と主門脈形成不全(PPVH)が多い。
肝臓の機能は腸内で形成された多くの毒素を除去しています。門脈とは肝臓への血液のルートの一部です。
肝シャントと犬では、血液が流れる門脈が場合によっては複数肝臓に到達しないようにバイパスルートを形成してしまう。。
その結果、肝臓は身体のニーズに見合った大きさに成長しません。
シャントの場合には、血液中の毒素は全身を循環し、肝臓のフィルタ処理をバイパスし、最終的に脳に到達してしまう。。
神経毒の最も有害の一つは、脳が正常な脳機能を破壊する達するアンモニアである。
イヌの肝シャントの症状は通常、早い年齢で現れる。
犬が高齢になるまで肝シャントの兆しが現れていないいくつかのケースでは、腎臓や膀胱の石の問題から併発する場合がある。
肝シャントの症状は、うつ病、異常行動(宙を見て旋回)、バランス障害、記憶障害、脱力感や無気力、痙攣、体重増加、嘔吐、下痢など。
治療法は困難な手術のみ、長期的になるが、必ずしも成功していない。
バーニーズ・マウンテンでは、、肝臓の内側に異常なバイパス血管がある場合が多い。
このようなシャントは、肝門脈体循環シャント(IHPSS)と呼ばれています。
診断が高額になるのでほとんどの場合は発見できず死にいたる。
その他
甲状腺機能低下症
免疫細胞の攻撃により甲状腺細胞が破壊され、体の恒常性を保つ役目の甲状腺ホルモンの分泌が低下し、体内の代謝が滞る。
代謝が滞ると体が重く感じられ、消費されるエネルギー量が減ってだんだん太ってくる。代謝が滞るから感染に対する免疫力も落ち、毛が抜け、下痢することもある。
破壊された甲状腺細胞を再生するのは困難で、分泌されなくなったホルモンを薬によって補充してやることで体内のホルモン値は正常に戻り、ホルモン値が元に戻れば犬はまた元通り元気な姿を見せてくれる。
ただ生涯薬の世話になることになる。
IMHA:自己免疫性溶血性貧血(Autoimmune hemolytic anemia)
バーニーズにはとても多く見られ、要重要注意の疾患です。
貧血は貧血でも、自分の持つ抗体によって赤血球が破壊されておこる貧血。
赤血球が乏しくなるから体中に酸素が充分行き渡らず、しんどさや白い粘膜が見られ、また壊れた赤血球から色素によって茶色い尿が出る。
治療法は他の自己免疫疾患と同じく対症療法のみ、溶血の原因を取り除く根本的な治療は出来ない。
【症状】疲れやすい、息が荒いなどの症状の他に多飲・多尿など。元気がなくなる、疲れやすい、運動をしたがらない。黄疸や呼吸が浅く速い、脈が速いなどの症状も見られます。
【治療】ステロイド剤や副腎皮質ホルモンなどの投与で免疫システムを抑える赤血球を破壊する免疫システムを抑える。
症状が重い場合は抗がん剤の投与や輸血をおこなうこともありますが、「免疫」によって輸血された血液が破壊され、肝臓や腎臓に悪影響を与えるため症状が悪化する可能性もある。
早期発見であれば生存率は80%と高いが、恐ろしい病気で遺伝性が少なからずあると思われるのでブリーダーには配慮が求められます。
自己免疫性血小板減少性紫斑(Immune Thrombocytopenic purpura)
免疫細胞が血液の凝固に重要な血中の血小板を破壊する疾患。
そもそも免疫細胞は腫瘍細胞やウィルスやバクテリアを狙うが血小板はとばっちりのように巻き込まれて破壊されてしまう。
血小板が破壊されて数が減ってしまうと、その役目である血液凝固が機能しなくなる。
突然皮下出血して皮膚に紫斑が現れたり、歯肉から出血したり、鼻血が出たり、見えないところでは消化管粘膜からも出血したり。消化管からの出血は便を見てようやくわかる。
ステロイド剤による免疫抑制治療はどこの病院でも受けられるが、
大量出血した時に全血あるいは血小板輸血を行ってくれる病院を事前に知っておけば、この疾患に限らず事故などのときにも頼りになるだろう。
重症無筋力症(Myasthenia gravis)
神経から筋組織への刺激伝達障害疾患。神経からの刺激を筋肉に伝えるレセプター(受容体)が血中を廻る抗体に攻撃されるため、刺激が筋肉に伝わらず麻痺症状を呈する。
麻痺状態が局所的に顔面に現れることもあるが、なによりも食道に現れると食べ物が喉に詰まるほか、全身の麻痺や呼吸器系の麻痺が起こると命が危ない。
コリンエステラーゼ阻害剤の投与で神経伝達物質アセチルコリンの濃度を上げ麻痺を回避するほか、ここでもやはり免疫反応を抑える治療が行われる。
根本的な原因に対する治療が出来ないのが自己免疫疾患。できるだけ症状の程度が酷くならないように、騙し騙し付き合って行くしかないのか。
悔しいけれど獣医療と科学の限界は思ったよりも身近なところにあるのだった。
髄膜炎(Myasthenia gravis)
髄膜炎とは、脳や脊髄を覆う髄膜という部分が炎症を起こす重病で、主に細菌性髄膜炎と、無菌性髄膜炎の2種類があります。
髄膜炎のうちの多くは、細菌が歯や耳の病気から血液を介して侵入し、発症に至る細菌性髄膜炎で、重い後遺症が残ることがあります。
細菌性髄膜炎のうちの一つにジステンパー性神経症があります。混合ワクチン予防接種に必ず含まれる脅威の病気である事はみなさん御存知かと思います。
無菌性髄膜炎の原因は現在不明ですが、こちらは比較的軽症で、治る可能性があります。
ただし無菌性髄膜炎はバーニーズの要注意遺伝性疾患に挙げられています。
発症は生後3カ月~2歳位の若い犬多いです。
症状は、発熱、痙攣、突発的な痛み(特に首)、歩行異常(猫背、棒足、ローリング、突然つまずく)、寝たきりなどがあります。
症状が軽くなったり重くなったりするので様子を見ているうちに状態が悪化して病弱となり麻痺が現れたり、感染症を併発したり、失明にいたります。
【治療】脳脊髄液検査、X線検査、ルーチン検査などを行い、コルチコステロイドや抗生物質、重症の場合には長期的に多量の副腎皮質ホルモンを投与します。生涯投薬が必要な場合もあります。
VDW:フォン・ウィルブラント症(血小板機能障害)
フォン・ウィルブラント症は先天性血液凝固障害の一種です。この病気は血液が固まる際に必要なフォン・ウィルブラント因子が欠損、あるいは機能不良のために出血しやすく、なおかつ出血が止まりにくいという命にかかわる場合もありうる病気です。犬では、1977年にドーベルマンで最初に報告されましたが、現在ではおよそ50犬種にこの病気が認められています。症状としては、粘膜部位の出血や皮下出血、鼻出血、胃腸管出血(血便)、血尿、発情出血がなかなか収まらない、怪我や手術による出血などが止まりにくい(重症例では止まらない)、体表面の血腫、関節内の出血のために運動障害が起こるなどで、重症例の場合、乳歯を抜歯しただけで死亡することもあります。
フォン・ウィルブラント症にはタイプⅠ~ⅢがあってタイプⅠは比較的軽症でありタイプⅡタイプⅢは重症になります。
フォン・ウィルブラント症の発生原因は常染色体劣性遺伝です。
常染色体劣性遺伝では父・母のDNAを検査して危険因子を持っているかどうか検査して発生を回避できる疾患がいくつかあります。
現在、フォン・ウィルブラント症は遺伝子マーカーが発見されていて、アメリカのVetGenにおいてDNAレベルでの検査が可能になっています。
小さなブラシで口腔内の粘膜をこするだけという簡単な方法でその犬のサンプルを採取でき、それに付着した細胞から病気の因子があるかどうかをチェックできます。日本からもVetGenよりキット(ブラシのセット)を取り寄せて、検査に出すことも可能です。
DNA検査で、Affectedアフェクテッド(ホモ接合遺伝子=ペアで両方とも危険因子を持つ=発症)、Carrierキャリア(ヘテロ接合遺伝子=片方だけが危険因子を持つ=発症しないが後の世代で発生する可能性がある)、Clearクリア(病因遺伝子なし)かがわかります。
常染色体劣性遺伝では、Affected同士の交配では100%Affected。AffectedとCarrierの交配では50%Affected,50%Carrier。AffectedとClearの交配では100%Carrier。CarrierとCarrierの交配では25%Affected,50%Carrier25%Clear。CarrierとClearの交配では50%Carrier50%Clear。Clear同士の交配では100%Clear、が生まれます。あくまでも確率なので100%でない場合は大きくバラツク時もあります。
なので、Affectedが出る確率のある交配は避けなければなりません。
日本のバーニーズで発生したのはタイプⅠではありますが海外ではタイプⅢも発生しています。
ブリーダーは各犬を検査してリザルトのデータを共有する必要があります。
RD: 腎臓形成不全(Renal dysplasia)
腎臓形成不全は生まれながらに腎臓の発育や形状が正常でなく生後10週目~1歳の間に現れる疾患です。
腎臓形成不全が原因で亡くなった仔犬の腎臓は小さくて黒ずんでいる場合が多いそうです。しかし亡くなった犬を検体解剖する事は少ないので死因の特定が難しいケースが多いです。
この疾患の発生原因もフォン・ウィルブラント症と同様に常染色体劣性遺伝です。
現在、RDも遺伝子マーカーが発見されていて、アメリカのDOGenesにおいてDNAレベルでの検査が可能になっています。
a) Carrier、b) Homozygote (=Affected)、c) Clearと結果がでます。
バーニーズ全体の1~10%がCarrierであると推測されています。低い確率ですが特定犬種のうちの一つに挙げられています。
発症率が低い事と、仔犬の時に発育不足で死亡した犬の死因は他にも多々考えられるけれどもそれを追求して特定診断する事はあまりなく海外のブリーダーの間でも重要視されていませんでした。
、しかしDNA検査レベルで回避できる事が分かり最近では北欧やアメリカのブリーダーは検査を呼びかけています。
脊髄の遺伝性疾患
DM:変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy)
変性性脊髄症は、痛みを伴わず、ゆっくりと進行する脊髄の病気です。初期症状はヘルニアに似ていると言われています。
日本国内では最近コーギーの老犬に多く発見され始めましたが大型犬では発症件数が低く診断・発見すら難しいというのが現状です。なのでデータも少なくハッキリした対応もまだできるようにはなっていません。
もともと背が長くヘルニアも多いコーギーと、大型犬種の場合は同じではないのではないかと言われています。
また、平均発生年齢が10歳位ではないかと推測されており、そこまで生きる事ができないという事が課題とされているバーニーズにとっては、いずれは平均寿命を10歳以上にする事を目指したいしDNA検査レベルで回避する事が可能ならば回避する努力をしていくべきであろうと最近は話題になるようになってきました。
現在日本では検査すらする事ができず、アメリカのOFAやGenSolというラボからDM用のDNA検査キット(歯ブラシのような物)を購入して遺伝子診断を依頼する事が可能です。
OFAの場合はOFAを通してミズーリ大学の検査ラボに遺伝子診断を依頼する事になります。
OFAではジャーマンシェパード、ボクサー、ラブラドール・レトリーバー、シベリアンハスキー、ミニチュアプードル、ウェルシュコーギーなどいくつかの犬種を特定要注意犬種に指定していますがバーニーズも含まれています。
この疾患の発生原因もフォン・ウィルブラント症と同様に常染色体劣性遺伝です。
OFAではG/G (normal), A/G (carrier), A/A (affected/at risk)と結果がでます。
GenSolではA (Clear / Normal), B (Carrier / Not affected), C (At risk / Affected)と結果がでます。
DNA検査レベルで容易に回避できる事が分かり最近ではアメリカのブリーダーや東ヨーロッパのブリーダーを
中心に検査を呼びかけています。
SOD1B:バーニーズのみの固有の変性性脊髄症の遺伝子型変異
上記の変性性脊髄症(DM)は、118G>変異と呼ばれるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の突然変異と相関しています。DMのDNA検体試験ではSOD1遺伝子の118G>を試験します。
2015年より最近では、SOD1遺伝子中の第二の突然変異が、バーニーズ・マウンテン・ドッグ(だけ)で検出されました。SOD1B 52A> T変異と呼ばれます。
現在のところ、52A> T変異と118Gのコピーなしの2つのコピーを持つ単一のBMD>変異が臨床的にDMと診断されています。
研究段階では、118G> Aおよび52A> Tの両方に「CARRIER」をテストし、複雑な突然変異の相互作用の可能性を臨床的に徴候を示しました。
SOD1B変異はそれほど頻繁には検出されませんが(3%)118G> BMDの変異(38%)、疾患の進行において悪い影響を与える役割を果たし得ます。
アメリカのミズーリ大学で最も盛んに研究されていて、バーニーズマウンテンドッグのブリード・データベースであるBerner Garde財団(http://www.bernergarde.org)が協力して情報を収集、維持し、データベースで結果を共有しています。
歯の問題の遺伝性
歯の問題は、バーニーズでは「噛みあわせ」(アンダーショットとオーバーショット)と「欠歯」が多くあります。
いずれも家庭犬として生活するには問題になりませんが、犬というものはそもそも捕食動物であるという沿革がある事、バーニーズは大型ワーキングドッグで想定される用途に牽引がある事、原因として歯だけではなくアゴや頭部の骨格が関与している→頭部の幅やマズルの長さ、リップの形状などブリードタイプに大きく影響を及ぼす事柄が関連しているのでブリーダーは正しい道筋を考える必要があります。
ドッグショーでも欠点(重大な欠格ではない)として減点対象になります。
歯や顎の構成問題は複合型劣勢遺伝であるとされています。交配の組み合わ選ぶ際には考慮されるべきです。
ブリーダー間で情報を共有する必要があります。
噛みあわせ
顎の上下噛みあわせが、上あごが前にせり出しすぎているオーバーショットと下顎が前にせり出し過ぎて受け口になっているアンダーショットなどがあります。バーニーズではアンダーショットの因子遺伝子を持つ血統がとても多いです。生後7カ月~1歳頃に頭部の発達とともに徐々に現れる場合などもありドッグショーや繁殖で活躍させようとブリーダー(だけとはかぎりませんが)が残していたのに出現してしまい頭を悩ませる場合があります。
欠歯
どんな犬も成犬では、上下あわせて歯が42本なのが完全です。
しかし生まれながらに1本または複数本歯が生えない場合があります。下顎の第1臼歯、前臼歯、第4臼歯、上顎の第1臼歯、第3臼歯が欠歯となりやすいと言われています。
ドイツ原産の犬種や日本犬では欠歯を重大な欠格と位置付けている犬種がありますが、その根拠は、歯は骨の一部・延長であり、あごの構成と関与しているので噛み合わせに影響を与える。または逆に頭部の骨格構成から影響を受けている。そしてさらに頭部の構成は胸部から影響を受けている・・・というようにすべての骨格構成は連鎖しているので歯が骨であるならば完全が求められるというものです。
完全歯は優勢で遺伝すると言われる一面もありますが、欠歯は複合型の劣勢で遺伝されます。
欠歯を許さない犬種でも欠歯は多く出てしまいます。もともとマズルが長く遺伝子プールの狭いバーニーズでは欠歯はとても多いです。
バーニーズのスタンダードブックでは、第一前臼歯の欠歯は許す、奥歯3本の臼歯に関しては考慮しない=欠歯を許す、とされています。なので最大8本の欠歯は許す。とされています。
バーニーズ原産国スイスには犬種の教科書のような「スイススタッドブック」がありそこには2本続けて(となり合せ)の欠歯は欠点であると記されていたそうです。
多めに見て一部許されてはいますが遺伝する事だと分かっているのでブリーダーは考慮して交配し、完全を目指す事がベターです。
人間のエゴ
繁殖に使用するのは避けるのがベターというコトバ
どんな犬種でも同じだと思いますが、純血種の繁殖は人間のエゴだと言われます。
遺伝性疾患を無視する無知な繁殖屋は説明するまでもないですが、
情熱をもって誠実にブリーディングをしているブリーダー繁殖家でも、健全性を大前提にしたいけれども犬質の向上も求めていて「スタンダード」という指示書に従いタイプの追求もしていかなければなりません。
「避けるのがベター」でも配慮をもって「避けない」行為をしています。
すべてを「ちゃんと避け」ていたらタイプの良い交配相手は見つけられず
バーニーズはバーニーズでなくなってしまいます。
健全性だけを重視していたらトライカラーのボーダーコリーやオーストラリアンシェパードのようになってしまうと思います。
ならば最初からバーニーズより健全で利口なボーダーやオーシーを選ぶのが「ベター」です。
バーニーズにはバーニーズの魅力があり、「熊みたい」というのが褒め言葉な犬種です。
バーニーズは健全性においてはまだ発展途上で少しずつしか改善して行けない犬種なのかもしれません。
当犬舎では、仔犬を迎えてもらうご本人には隠さずにリスクの説明をする事を心がけています。
リスクの説明をしてブリーディングプログラムを理解していただいた上で予約をしていただき、オスの予約・メスの予約・ショータイプの予約・ペットタイプ=家庭犬の予約がある一定数に達してから交配を行うというスタイルをとっています。
性格的な問題
バーニーズは他の犬種と比べてもとても良い性格だと思います。
家族の一員として人間と共存できるかどうか…絶対に怒ったりしない性格かどうか…という点で安心できる犬種だと思います。
重症ではないけれど少しシャイという位の性格の子が多いです。
幼少期、特に生後5~8週目に社交性を付ける教育が重要です。繁殖屋(バックヤードブリーダー)で生まれ重要な時期に市場→ペットショップで育った犬には重度のシャイや攻撃性のある犬も見られるので信頼できるブリーダーからその仔犬の母親と触れ合って選ぶ事を勧めます。
犬は従順だけど、時にはひねくれたりもします。
ひねくれたりしないように努力するとバーニーズは喜び、楽しみ、飼い主(家族)の痛みを心配するというような感情表現をとても大きく見せてくれてベッタリすり寄って来ます。それが醍醐味でもあります。
犬を擬人化して我が子のように育ててしまうと歯止めが効かなくなってしまうので、限度を教え込むような習慣付けが必要です。
当犬舎で心がけていることは
1、家の中で家族の一員として飼う。
2、家の中ではクレイト、ケージ、バリケンのような小屋に閉じ込めない。
3、眼があったら話しかける。
4、毎回洗ったきれいな食器でフードを与える。
5、1~2日に1度のブロー・ブラッシングで清潔に保つ。
6、毎日掃除機をかけて居住スペースを清潔に保つ。
7、自由運動を毎日させる。
8、怒らない、しからない。
欧米の文化慣習では当たり前の事ですが日本人にとっては難しく感じるかもしれません。
やってみるとそれが犬にとって良い事だと分かるので出来る範囲から試してみて下さい。
バーニーズはシャイな性格になりやすいし、シャイは犬において遺伝、伝染するので私はブリーダー、ショーファンシャーとして気をつけています。